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東京地方裁判所 昭和28年(ワ)4798号 判決

原告 新光貿易株式会社破産管財人 田村福司

被告 加藤真珠養殖株式会社 外二名

主文

(1)  訴外新光貿易株式会社が別紙目録〈省略〉記載の債権につき、被告加藤真珠養殖株式会社に対し昭和二十七年八月二十二、三日頃譲受名義人被告加藤効とする同月十日附債権譲渡証書によつてなした債権譲渡はこれを否認する。

(2)  被告加藤真珠養殖株式会社が前項記載の債権につき、昭和二十七年八月二十二日以降同月中、被告加藤効を契約名義人とする同月十一日附契約書によつて、被告中村就との間になした債務更改契約はこれを否認する。

(3)  被告加藤効に対する原告の請求を棄却する。

(4)  被告中村就は原告に対し金百七万円及びこれに対する昭和二十六年三月一日以降支払ずみに至るまで年六分の割合による金員を支払え。

(5)  訴訟費用はこれを五分し、その一を原告の負担とし、その余を被告会社及び被告中村就の連帯負担とする。

(6)  この判決は第四項に限り原告において金二十万円の担保を供するときは仮りに執行することができる。

事実

原告は主文第一、二項及び第四項同旨並びに被告加藤効は主文第一項記載の債権譲渡及び同第二項記載の債務更改契約がともに無効であることを確認する。訴訟費用は被告等の負担とする旨の判決及び同第四項について仮執行の宣言を求め、その請求原因として「(一)訴外新光貿易株式会社(以下破産会社と略称する)は、養殖真珠の加工輸出等を営業目的とする株式会社であり、昭和二十七年八月十六日支払を停止し、同年十二月二十二日東京地方裁判所において破産宣告をうけるに至つたものであるが、原告は、同裁判所によつて選任された右破産会社の破産管財人である。(二)破産会社は、同会社が支払を停止した後である昭和二十七年八月二十二日頃被告加藤真珠養殖株式会社(以下被告会社と略称する)に対して、債権譲受名義人を被告加藤効とする債権譲渡証書により被告中村就に対する別紙目録記載の債権を譲渡し、被告会社は同年同月中被告加藤効の名義を用いて右債権の債務者である被告中村との間において日附を同月十一日に遡らせて、右債権について債務更改契約をした。よつて右債権譲渡については破産法第七十二条第一号により、債務更改契約については同第八十三条第一項第一号によりこれを否認する判決を求める。(三)前記債権譲渡、債務更改契約の一方の当事者は被告会社であるにもかかわらず、被告加藤効は証書上名義人となつているので将来の紛争を避けるため同被告に対する関係において右両行為がともに無効であることの確認を求める。(四)被告中村は、真珠養殖事業の資金として昭和二十六年二月中破産会社より別紙目録記載のとおり金百七万円を借りうけたものであるが、原告は(二)の否認の結果として同被告に対し、右金員及びこれに対する同年三月一日より支払ずみに至るまで商法所定の年六分の割合による利息の支払を求める。」と述べた。〈立証省略〉

被告等代理人等は、原告の請求を棄却する旨の判決を求め、

被告会社、同加藤効両名代理人は、答弁として「破産会社が原告主張の日時に破産宣告をうけたこと、原告が同会社の破産管財人であること、及び原告主張のとおり被告会社が被告加藤効の名義を用いて破産会社より別紙目録記載の債権を譲り受け、これにつき被告中村と債務更改契約を締結したことはいづれも認めるが、本件債権譲渡、債務更改契約がいづれも破産債権者を害することを知つてなされたものであるとか、又は支払停止の事実を知つてなされた支払停止後の破産債権者を害する行為であるとの原告の主張はいづれも否認する。本件債権譲渡は昭和二十七年八月十日行われたものであり、かつ当時被告会社が破産者に対し有していた約束手形金三百九万千二百円、貸附金七十万円、立替金四十三万二千五百円合計四百二十三万三千七百円の債権の内入として代物弁済をうけたものである。もし仮りに同月二十二日以降に行われたものとしても、破産会社は同月十六日以降においても支払を継続していたものであるその他の原告の主張事実は不知。」と答えた。〈立証省略〉

被告中村代理人は、答弁として「破産会社が養殖真珠の加工輸出等を営業目的とする会社であること及び、被告中村が別紙目録記載の債務を破産会社に負担したこと及び被告会社の債権譲受を承認し、同被告との間で原告主張のとおり債務更改契約をしたことは認めるが、債務更改の日時は昭和二十七年八月十一日である。被告中村としては債権者たる者に支払うのである限り何人に支払うも同じであると思料し、債権譲渡及び債務の更改を承認したのであつて、原告の支払停止の事実を知つて債務更改契約をなした旨の主張は否認する。その他の原告主張事実は不知。」と答えた。〈立証省略〉

理由

破産会社が原告主張の日時破産宣告をうけ、原告がその破産管財人に選任された者であることは、原告と被告会社及び被告加藤効との間では争いなく、原告と被告中村就との間では当事者間に争いのない甲第一号証によつてこれを認める。

(一)  原告の債権譲渡否認の請求について判断するに、破産会社は別紙目録記載のとおり被告中村に対し金百七万円を貸与したこと並びに右債権が被告加藤効を譲受名義人として破産会社より被告会社に譲渡されたことは当事者間に争いがない。よつて先ず破産会社が破産債権者を害することを知つて、前記債権を被告に譲渡した旨の主張について判断するに、証人吉井正三、同原田慶次郎の証言により成立が真正であると認められる甲第二、第三号証及び右両証人の証言によれば、破産会社は昭和二十七年八月上旬頃より経営困難となり同月十六日頃より約束手形の支払を拒絶する等一般に支払を停止したことが認められる。被告等は、破産会社は同日以降においても支払を続けていた旨抗争するけれども、前認定を左右する証拠は存在しない。次に原告は、被告会社が破産会社から前記債権譲渡をうけたのは、右破産会社の支払停止後である旨主張し、被告は、これを否認し、被告会社が債権譲渡をうけたのは破産会社の支払停止前である同月十日である旨抗争するので、この点について判断するに、証人吉井正三の証言、被告加藤効の本人訊問の結果を綜合すれば、右債権譲渡は同月二十二日頃被告会社の代理人たる被告加藤効と破産会社の当時の代表取締役吉井正三との間になされたものであること及び当時破産会社は被告会社に対し多額の債務を負担し、又種々の便宜を図つて貰つていた関係から、破産会社代表取締役吉井正三は被告会社代理人たる被告加藤効の要請を容れ、作成日附を遡らせた同月十日附の債権譲渡証書を作成したものであることが認められる。被告本人加藤効は、同月十日右吉井との間に債権譲渡についての口約束が行なわれていた旨陳述しているが、この陳述は措信し難い。その他前認定に反する証拠は存在しない。前認定の如く破産会社は本件債権譲渡当時すでに経営困難に陥り、支払を停止していたのであるから、この債権譲渡は被告会社主張のように代物弁済としてなされたものであると否とにかゝわりなく、破産財団を減少し、破産債権者を害するものというべきである。また破産会社代表者は被告会社代理人の要請にもとずき支払停止前の譲渡であるかの如く、債権譲渡証書の作成日附を同月十日に遡らせていること等よりすれば、この譲渡は、破産法第七十二条第一号の破産会社が破産債権者を害することを知つてした場合にあたるものということができる。したがつて右債権譲渡の否認を求める原告の請求は理由あり正当として認容すべきである。

(二)  次に原告の債務更改契約否認の請求について判断するに、破産会社が昭和二十七年八月二十二日頃、破産会社から債権譲渡をうけたものであること前認定のとおりであるから、右債権譲渡を前提とする本件債務更改契約がなされた日時が同日後であることは明らかである。(的確に日時を確定することができる資料はない。)又破産会社が支払を停止した日時が、同月十六日頃であることについてはすでに認定したとおりである。しかるに、他方原告は、債務更改契約は遡つて同月十一日附でなされた旨主張し、被告中村は同日時に契約をしたというのであるから、少くとも日附については当事者間に争がないものと認めるのが相当である。他に格別の主張立証のない限り、被告中村は、被告会社と話合の上で債務更改契約の日附を遡らせたものというべく、したがつて当時、被告会社の債権取得につき前段説示の否認の原因があることを知つていたものと認めるのが相当である。しかして、この場合債務更改契約によつて新に被告会社に対し債務を負担することとなるのは格別として、破産者に対し負担した前記債務を免れることとなるのであつて、これによつて破産財団の減少をきたすべきこと前段否認によつて招来する当然の結果であるから、被告中村は、破産法第八十三条第一項にいう転得者にあたるというべきである。よつて被告中村に対し、右債務更改契約の否認を求める原告の請求は理由があり正当として認容すべきである。

(三)  原告の被告加藤効に対する債権譲渡、債務更改契約無効確認請求について判断するに、被告加藤効は、原告主張の本件債権譲渡及び債務更改契約が、原告主張のとおり被告加藤効の名義でなされたことを認め、少しも自己が契約当事者たることを主張しているものではない。(この間の事情は、被告加藤効の本人訊問の結果によつても十分に窺い知る。)果して、しからば、被告加藤効は別紙記載の債権が自己に属することを主張するものとはいえないのであつて、原告と被告加藤効との間には別紙債権が被告加藤に属しないことにつき現に争があるということができず、将来争を生ずる不安危険が現に存するといえないのである。結局当事者間には権利不存在確認の利益があるといえないから、この点についての原告の請求は理由なく失当として棄却すべきである。

(四)  最後に原告の被告中村に対する貸金請求について判断する。破産会社が原告主張のとおりの営業目的の会社であることは成立に争のない甲第一号証によつてこれを認めることができるから、(一)の冒頭で認定した貸借については、破産会社は商法第五百十三条第一項の規定により、同法第五百十四条所定の年六分の利率により利息の請求をすることができるといわなければならない。しかして右貸借による債権の譲渡及び債務の更改が否認すべきものであつてみれば被告中村就に対し、右貸金と利息の支払を求める原告の請求は理由があり、正当として認容すべきである。

よつて訴訟費用につき民事訴訟法第八十九条、同九十三条第一項を、仮執行の宣言につき同法第百九十六条第一項但書を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 小川善吉)

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